1.
Toshiharu Ishii, Koutarou Maeda, Kaoru Nakamura and Yasuhiro Hosoda.
Cancer in the aged: An autopsy study of 940 cancer patients.
J. Am. Geriatrics Society 27 (7): 307 - 313, 1979
要旨;高齢者癌の特徴を明らかにするために940例の65歳以上の担癌患者病理解剖例について調査した。癌部位としては胃、肺、食道、肝、膵の順であった。偶発癌としては前立腺、甲状腺、結腸が80歳以上で多くみられた。癌有病率は70歳までほぼ一定で80-84歳にピークがあったが、男85歳以上、女75歳以上で減少傾向がみられた。これらの結果をSwedenにおける高齢者癌病理解剖報告(部位としては前立腺、肺、結腸、胃、乳線の順)と比較検討した。
意義;本論文は私が医学部学生時代に、当時慶應大学病理の大学院生であった石井寿晴先生(現;東邦大学教授)の指導のもとで病理解剖例のデータ解析を行ったものである。Swedenでの100歳以上の超高齢者(centenarian)病理解剖例を報告した論文(Ishiietal;J.Am.GeriatricsSoc26:391,1978)の続編であり、日本の高齢化に伴う癌の特徴をいちはやく予知した論文として意義がある。
2.(学位論文)
Kaoru Nakamura.
Monocyte-mediated cytotoxicity on bladder cancer cells in vitro and its implication in the treatment of bladder cancer patients with bacillus Calmette-Guerin
Keio J Med 33(4): 185 - 199, 1984
要旨;膀胱癌に対するBCG膀胱内注入療法の免疫学的機序を解明するためにヒト膀胱癌継代細胞T24、KU7に対するヒト単球の細胞傷害能をinvitroで測定した。ヒト末梢血リンパ球より単球を分離し、3H- thymidine(3H-TdR) releasing assay, incorporation inhibition assayによって膀胱癌細胞に対するヒト単球の細胞傷害能を正常人および患者で測定した。さらに臨床で使われているTokyo172 strain BCGによる単球の細胞傷害能の増強効果を明らかにした。
意義;現在では確立された治療法として広く用いられている膀胱癌に対するBCG膀胱内注入療法は1980年代はじめにアメリカで評価されはじめ、日本では83年頃から一部施設でようやく開始された。しかしまだその作用機序や至適投与方法に関する基礎データは当時ほとんどなく、本研究はその機序解明のためのin vitro での実験系確立に重点をおいた点に意義がある。
3.
Kaoru Nakamura, J.W. Chiao, George R. Nagamatsu and Joseph C. Addonizio
Monocyte cytolytic factor in promoting monocyte- mediated lysis of bladder cancer cells by bacillus Calmette-Guerin.
J. Urol. 138 (4): 867 - 870 , 1987
要旨;膀胱癌に対するBCG膀胱内注入療法の免疫学的機序を解明のためにヒト単球由来の液性因子の膀胱癌細胞T24の細胞融解について検討した。単球をBCGによって刺激すると単球由来の液性因子細胞融解能は56%増強した。この効果はActinomycinD処理によって減少したが、MitomycinC、TNF抗体処理では変化がなかった。BCG免疫膀胱癌治療の機序としてこの単球由来の液性因子の関与が強く示唆された。
意義;米国留学中に内科癌免疫学研究室との共同研究である。前編では単球と腫瘍細胞のcell to cell contactによる細胞障害能を測定したが、本論文では免疫学者のすすめで単球由来の液性因子による膀胱癌細胞の細胞融解能を明らかにした。さらにこの液性因子がlymphokine、TNFとも異なることを示した点に意義がある。本論文はJ. Urol. 138 (4) の中で "This Month in Investigative Urology" としてEditorによる1ページの紹介がつけられた。
4.
Kaoru Nakamura, Nabet G. Kasabian, Joseph C. Addonizio, Jen Wei Chiao, Muhammad S. Choudhury, George F. Owens, Masaaki Tachibana and George R. Nagamatsu
Correlation of heterogeneity index score (HIS) of DNA content in bladder cancer recurrence. Urology 30 (5): 498 - 500, 1987
要旨;膀胱癌の悪性度診断としてFlow cytometryによるDNA解析を定量化するために新たに導入したプログラムによってmean DNA contentを計算し、これを heterogeneity index score (HIS)とした。表在性膀胱grade 1, 2の患者のHISを測定しその臨床経過におけるHISの変化と病理組織像の変化を比較検討した。その結果再発を繰り返す患者ではHISが高値を示した。この結果から膀胱癌患者の予後、経過観察においてHISの悪性度診断の客観的指標としての有用性が示唆された。
意義;FCMによるDNA解析を単にdiploidy, aneuploidy に分けるのでなく、HISとして定量化し、膀胱癌の再発指標として用いた点に意義がある。パラフィン包埋標本を用いてHISをretrospectiveに解析した論文(原著番号#10:Urology 30 (4): 333 - 336, 1987)の続編である。病理検索でgrade1,2とされる移行上皮癌の悪性度をより客観的にする方法論の一つとして当時は評価され、Urology Annual 1988(著書#2)にも取り上げられた。
5.
中村 薫、出口修宏、萩原正通、中野間隆、秦 順一、 田崎 寛
睾丸腫瘍におけるHuman Chorionic Gonadotropin の分別定量とその臨床的意義
日泌尿会誌 81 (3): 408 - 413, 1990
要旨;hCGに対する単クローン性抗体を用いたサンドイッチ法に基づくhCG EIAとhomologous hCG-βRIAとを併用した分別定量法を用いて113例の睾丸腫瘍におけるhCGの多様性について臨床検討した。セミノーマでは合胞体様巨細胞の存在の予測に有用であり、非セミノーマ再発例ではfree hCG-βがより多く産生される例がみられた。この結果からhCG産生睾丸腫瘍の病理組織診断および病勢をより把握する上で、血清中intact hCG、 free hCG-βを測定が臨床的に有用であることが示された。
意義;hCGは絨毛性疾患だけでなく、非絨毛性疾患においても産生され腫瘍マーカーとして用いられている。腫瘍細胞から産生されるhCGには正常妊娠時のhCGと分子量、糖鎖構造の異なる分子的多様性が指摘されている。本研究では分別定量法と免疫組織化学的検索を113例の多数の臨床例に施行して、精巣腫瘍におけるhCGの分子的多様性を明らかにした点に意義がある。また本論文はYear Book of Urologyにも取り上げられた。
6.
Takashi Nakanoma, Kaoru Nakamura, Nobuhiro Deguchi, Junichiro Fujimoto, Jun-ichi Hata and Hiroshi Tazaki
Immunohistological analysis of tumor infiltrating lymphocytes(TIL) in seminoma using monoclonal antibodies.
Virchow Archiv. A Pathol Anatom. Histopathlo. 421(5):409-413,1992
要旨;セミノーマ組織中にみられる腫瘍浸潤リンパ球 (TIL)の免疫学的性格を明らかにするために20例のセミノーマの凍結切片を対象に、抗リンパ球モノクローナル抗体(Pan-T,suppresso/cytotoxic T, Helper/ inducer T, Pan-B, B-subset) を用いて免疫組織学的検討を行った。その結果TILはcytotoxic/suppressor T cell が優位であったが、成熟B-cellもリンパ濾胞状に存在することが明らかになった。
意義;精巣胚細胞腫瘍のなかでも比較的予後のいいセミノーマは組織内にリンパ球浸潤が多い特徴があり、このTILと予後との相関が示唆されてきた。しかし従来このTILの免疫学的特徴を明らかにした報告はほとんどなく、またB-cellは存在しないとされてきた。この論文ではPan-B, B-subsetに対する抗リンパ球モノクローナル抗体によって初めて成熟B-cellの存在を明らかにしたことに意義があり、病理学専門誌に採択された。また本論文はYear Book of Urologyにも取り上げられた。
7.
Kaoru Nakamura, Shiro Baba, Hiroshi Tazaki
Endopyelotomy in horseshoe kidneys
J. Endourology 8(3): 203- 206, 1994
要旨;馬蹄腎における尿管腎盂移行部狭窄症の低侵襲治療法として、経皮的移行部狭窄切開術(Endopyelotomy)を3症例に対して世界で初めて施行した。1例は以前のopen surgery後の再狭窄例で2例はprimary症例であった。腎盂鏡下にフック型のコールドナイフで狭窄部を切開し6週間ステントを留置した。その結果3例とも自覚症状は改善し、2例では画像診断においても3~4年にわたって長期改善がえられた。
意義;経皮的移行部狭窄切開術1983年に報告された術式であり、先天性および続発性尿管腎盂移行部狭窄症に対する閉塞解除に85%以上の有効性が示されている。この術式を腎回転融合奇形である馬蹄腎3例に世界で初めて適応した点に意義がある。馬蹄腎では異常血管走行や腎回転異常による切開方向の決定に困難があったが、血管造影、CTなど十分な術前評価によって安全に施行できることを示した。
8.
Oya, M., Nakamura, K., Baba, S., Hata, J. and Tazaki, H.
Intrarenal satellites of renal cell carcinoma: histopathologic manifestation and clinical implication.
Urology 46(2): 161 - 164, 1995
要旨:腎細胞癌における腎内多発性の頻度および病期・グレードとの関係を明らかにするために108例の腎癌標本の3mmスライスのステップセクションを作製し、病理学的検索を行った。その結果sattelite病変は6.5%にみられ、病期が進むにつれて頻度が増える傾向を示した。すなわちpT1 7.1%, pT2 3.0%, pT3 14.3%またN0 5.0 %、N1 25%、M0 5.8%, M1 25%であった。グレードとの相関はなかった。
意義:腎エコーが検診に導入されて以来、無症候で小さい腎腫瘍が多く発見されるようになり、ネフロン温存のために腎部分切除が適応されるようになった。その際に腎癌の腎内多発性が根治性の上で問題となった。安全な適応のためにその頻度と病期との関連を明らかにすることが必須であり、この論文では108例の多数例を用いてその頻度および形状を病理組織学的に明らかにした。さらに術前画像診断にも言及して臨床上有用な論文であることに意義がある。掲載後にしばしば腎癌の多発性に関する論文の中に引用されている。
9.
Nakamura, K., Baba,S., Fukazawa, R., Homma, Y., Kawabe, K., Aso, Y. and Tazaki, H.
Treatment of benign prostatic hyperplasia with high intensity focused ultrasound: an initial clinical trial in Japan with magnetic resonance imaging of treated area.
Int. J. Urol. 2(3): 176 - 180, 1995
要旨;前立腺肥大症(BPH)に対するHIFU( 焦点式高密 度超音波温熱療法)の安全性・有効性を検討するために、 日本での初めての多施設共同臨床治験を行った。対象は 93年よりHIFUを施行したBPH患者37例である。 術後 3ヶ月では、IPSS、QOL、Qmaxともに術前に比して有意な改善が得られ、全般的改善度では78%の有効率であった。また重篤な副作用はなかった。HIFUはBPHに対する新たな低侵襲治療として臨床的に今後有用と考えられた。
意義;HIFUは1950年代から開発が進められた技術であり、経直腸プローブの開発によって初めて人体への応用が可能になった。BPHに対する臨床機器として欧米と同時進行で進められた多施設共同臨床治験の報告であるが、その安全性、有効性が確認されたことに意義がある。さらに経直腸MRIによる治療効果の画像診断により、周囲組織への影響がないことおよび設定した治療域のみに熱変性による出血壊死が起きていることを初めて証明したことに意義がある。
10.
Kaoru Nakamura, Shiro Baba, Shiro Saito, Masaaki Tachibana and Masaru Murai:
High-intensity focused ultrasound energy for benign prostatic hyperplasia: clinical response at 6 months to treatment using Sonablate200
J. Endourol. 11(3): 197-201, 1997
要旨;前立腺肥大症(BPH)に対するソナブレイト200(SB200:改良機器)を用いたHIFU(焦点式高密度超音波療法)の長期臨床成績(6ヵ月)の検討を行った。対象は95年より,SB200によるHIFUを施行したBPH患者35例である。治療は腰椎麻酔下で施行した。35例中6ヶ月間の経過観察症例は22例であった。術後6ヶ月では,IPSS 9.5 ± 7.5, QOL 2.4±1.3, Qmax 11.4±4.0ml/秒(p0.01)と術前に比して有意な改善効果が持続した。BPHに対するSB200によるHIFUは、低侵襲で安全であり持続した治療効果が期待できる。
意義;プロトタイプ機器での設定画像の不明瞭性やより大きなBPHに対する治療域でのエネルギー不足を改良させたSB200によるHIFU治療の長期成績に関する報告である。米国ではまだFDAの認可がおりていないために米国に先立って臨床成績を報告することになった。プロトタイプに比較してより安定した治療効果を得ることが可能になったことを示した。将来的には前立腺癌への非観血的治療への応用可能性をもっており、そのために今後改良すべきポイントにも言及している点に意義がある。