血尿は腎・尿路疾患の重要な症候の一つです。
その原因は非常に多く,患者さんの訴え,年齢,性別,既往歴,診察所見をもとに検査がすすめられていきます。
大きく分けて,内科的疾患と泌尿器科的疾患の2つに分けられます。
急性腎炎など腎の糸球体における尿生成過程そのものに原因がある疾患です。頻度として多いのは,腎糸球体腎炎,IgA腎症などです。
腎・尿管・膀胱に器質的疾患があるときです。頻度が多い疾患としては,結石,腫瘍,感染症,外傷などです。以下ではおもに成人の泌尿器科疾患を中心に説明します。
尿検査の尿沈渣において赤血球が一視野で5個以上認められるときに顕微鏡的血尿といいます。通常は中間尿を検尿コップにとってもらい,尿検査を行います。
採尿方法は女性ではとくに重要です。女性の中間尿では外陰部を十分に清拭して拡げて採尿するようにしていただいています。生理血の混入が心配なときには,カテーテルでの採尿を行います。
検査は原則として,患者さんに負担のかからない非侵襲性の検査から順を追って行っていきます。
検尿の一部を用いて尿路上皮がん細胞の有無を発見するために行う検査です。クラス1〜5で表示されます。クラス4,5はがん細胞を強く疑う所見を意味します。
血液一般検査,生化学検査で腎機能をチェックします。さらに糸球体疾患(成人ではおもにIgA腎症)を疑うときには,血清IgA値(正常値350mg/dl以下)測定を行うこともあります。
腎臓の形態,膀胱病変,さらに男性では前立腺肥大の有無をみるために必須の検査です。侵襲もなく,外来診察室,入院のベッドサイドでも行えるので非常に有用です。腎では腎実質の胞性変化,良性あるいは悪性腫瘍,腎結石の発見,さらに尿路の閉塞に伴う水腎症,膀胱結石や残尿量,膀胱腫瘍をみつけることができます。
血尿と側腹部痛で腎・尿管結石症を強く疑ったときには至急撮影します。ただし妊婦さんや妊娠の可能性のある女性には禁忌です。
ヨード造影剤を静脈内注入して,5分後に腎盂への排泄時と15分後に尿管,膀胱まで造影剤が排泄されたときに撮影します。腎盂・腎杯の形状,尿管への尿の流れ具合,膀胱の形態をみるのによく行われる検査です。ヨードによる副作用があるため,腎機能低下(血清クレアチニン値1.3〜1.5以上),ヨードアレルギーの既往の患者さんには禁忌です。放射線被曝量も多いこと,造影剤に対する過敏症もしばしばみられること,他の低侵襲検査に比べて得られる情報量が限られていることなどから,最近は検査の適応に慎重になる傾向があります。
肉眼的血尿の患者さんでは,尿路の超音波検査やIVPを行ってから必要に応じてCTスキャンが行われます。通常のKUBX線検査ではわからない微小な結石や,腎腫瘍,膀胱病変の評価に優れています。救急外来で血尿を伴う急性腹症の患者さんでは,単純CTを緊急で行うこともあります。
肉眼的血尿の患者さんで,エコー,IVPを行ってから膀胱内の腫瘍病変が疑われるときや,左右どちらの腎臓からの出血があるかを確認するときに行われます。とくに男性では検査時に痛みを伴う侵襲的検査なので泌尿器科外来でも適応には十分に配慮しています。
膀胱がんの患者さんの約80%は,無症候性肉眼的血尿を契機に受診するといわれています。また腎がんでは最近は検診などでのエコー検査で偶然に見つかることが多くなっていますが,約30%の患者さんには血尿を伴います。無症候性の顕微鏡的血尿でも,高齢者60歳以上の患者さんでは,悪性腫瘍に十分留意して診断をすすめています。
血尿をきたした患者さんに,上記のような一連の検査を行っても,原因がわからないこともしばしばあります。とくに無症候性の顕微鏡的血尿は長期間にわたって持続することがあります。年に1回の外来受診での検尿,尿細胞診検査をお薦めしています。また原因がわからないまま,肉眼的血尿が自然に消失することもありますが,再び肉眼的血尿がでたときには必ず受診するように指導します。
【側註】
【器質的疾患】臓器そのものの構造に疾患がみられること。
【尿沈渣検査】新鮮尿を遠心し,沈澱した尿中有形成分を顕微鏡下で観察すること。
【痛みに対する処置】点滴路を確保してから,尿管の攣縮を抑えるために,副交感神経抑制剤の硫酸アトロピン1A 0.5mgを生理食塩水20mlで薄めてゆっくりと静注する。効果がないとき,疼痛がひどいときには非麻薬性鎮痛剤であるペンタゾシン15〜30mgを筋注する。
【超音波検査(腎エコー)】結石は音響陰影(acoustic shadow)を生じることで診断可能となる。また水腎症の程度,治療による改善の程度を経過観察する際に,低侵襲で繰り返して検査できる利点がある。
【腹部単純X線撮影(KUB)】腎部(Kidney)から尿管(Ureter),膀胱(Bladder)までの範囲を撮影するX線検査。
【排泄性尿路造影(IVP : 静脈性腎盂造影)】経静脈的に投与された造影剤が腎から排泄されることにより,腎盂・尿管・膀胱を造影する方法。尿酸結石などのX線陰性結石の診断にも適している。
【CT検査】2〜3mm以下の小さい結石や,X線陰性結石,水腎症を迅速に診断することができる。腎盂尿管腫瘍との鑑別にも有用である。
【膀胱鏡】硬性鏡と軟性鏡がある。キシロカインゼリーを尿道内注入してから施行します。