前立腺組織の肥大,容積の増大は加齢に伴う変化です。40歳代から良性の前立腺結節がみられることがあり,60歳代では70%,80歳では90%に達します。
臨床症状を伴う頻度は30〜50%程度ですが,高齢者人口増加の著しいわが国では,臨床的にも前立腺肥大症(benign prostatic hypertrophy;BPH)の患者は増加しています。
前立腺肥大症による排尿障害には,物理的閉塞(静的因子)と生理的閉塞(動的因子)が関与しています。
また,長年の前立腺閉塞によって,膀胱機能へ影響します。排尿障害を訴える患者を「下部尿路症状」(LUTS)ととらえて,そのなかで前立腺が主たる原因かどうかと考える傾向にあります。
前立腺肥大症による症状は大きく2つに分けられます。
頻尿,夜間頻尿,尿意をがまんできない尿意切迫感
尿の勢いが弱くなる,尿線が途中で途切れる,残尿感,排尿時のいきみ,尿閉など
問診のときに患者さんご自身に記入してもらうアンケートです。症状の各項目別に6段階の頻度を記入してもらい,その合計で症状の程度を数量化します。
診療ガイドラインの重症度判定基準では,IPSSの合計点が0〜7点を軽症,8〜19点を中等症,20〜35点を重症としています。
正常では排尿後に膀胱に残留する尿(残尿)は0mlですが,前立腺肥大症では尿道抵抗が増加すると排尿後の残尿が増加します。超音波診断装置を用いてその量を測定します。
単位時間当たりの排尿量を経時的・連続的にグラフにします。尿が膀胱に十分に貯まった状態で測定器に向って放尿してもらうだけで簡単にできる検査です。最大尿流率(Qmax),平均尿流率(Qave)を計測します。
症状や検査の各項目別に重症度の合計から全般的重症度の判定を行い,治療方針の目安にしています。
前立腺肥大症全般的重症度判定基準をもとに治療方針を決めます。
日常診療に用いられている治療法には次のようなものがあります。
前立腺肥大症治療の第1選択薬です。前立腺組織内の平滑筋が交感神経によって収縮して尿道を圧迫閉塞して起きる排尿障害に対して,交感神経の作用(α1受容体)を遮断することで症状を改善します。
その特徴は次のようです。
腰椎麻酔下に膀胱尿道鏡を尿道から挿入して,電極ループで肥大した前立腺組織を切除します。重症度判定で重症と判定されたとき,薬物療法の無効例,繰り返す尿閉,再発性尿路感染症,膀胱結石合併症例などに対して適応になります。約1週間の入院を要します。
【側註】
【経尿道的前立腺切除術(transurethral resection of prostate;TURP)】膀胱尿道鏡を挿入して電気的に肥大した前立腺組織を切除する方法。
【LUTS】lower urinary tract symptoms
【最大尿流率(Qmax)】1回の排尿における単位時間当たりの尿流の最大値。
【平均尿流率(Qave)】1回排尿量をその排尿に要した時間で割った平均値。