欧米では男性高齢者の悪性腫瘍死亡率は前立腺がんが第1位を占めています。日本での部位別がん死亡率は肺がん,胃がん,肝臓がん,結腸がん,膵がん,食道がん,直腸がんについで8番目に高く,男性における死亡原因の約4.2%を占めています。泌尿器がんの中ではもっとも高率であり,年々増加する傾向にあります。
初期には無症状であるか排尿困難を認めることがあります。がんが進行すると頻尿や血尿,排尿困難の悪化をきたします。進行性前立腺がんの場合,骨転移やリンパ節転移が高頻度に認められます。症状としては腰痛,関節痛や脊椎圧迫骨折などにより麻痺をきたすことがあります。骨盤内リンパ節転移により下肢の浮腫を生じたり,傍大動脈リンパ節転移や尿管への直接浸潤により水腎症や腎機能障害をきたすことがあります。
前立腺がんの腫瘍マーカーとして前立腺特異抗原(PSA)が用いられます。血液検査でPSAが高値の場合は前立腺がんを疑いますが,前立腺肥大症や前立腺炎でも上昇することがあります。
米国がん学会のガイドラインでは,50歳以上の希望者に対しPSA検査および直腸診による検診を推奨しています。日本においても全国で市町村検診における前立腺がん検診率が増加しており,人間ドックにおいてもPSAを中心とした前立腺検診が行われ,検診導入による早期がん発見率の上昇が確認されています。
腫瘍マーカーや直腸診により前立腺がんが疑われた場合,確定診断のため前立腺生検を行います。経直腸的超音波装置をガイド下に前立腺の生検が行えるようになり,診断率が向上しました。前立腺がんの確定診断がついた場合,CT,MRI,骨シンチグラフィーによる画像検査にて病期診断を行います。
前立腺がんの治療にはホルモン療法,手術療法,放射線療法などがあり,どの方法をとるかはがんの病期で違います。病期Bは根治的前立腺全摘術の適応ですが,高齢者や合併症のある患者では放射線療法やホルモン療法を行います。病期Cは放射線療法やホルモン療法,病期Dはホルモン療法の適応です。原則として手術療法は行いません。
これは前立腺がんを手術的に全部取り除いてしまう方法であり,前立腺および精囊を一塊として摘出し膀胱と尿道を吻合し,同時に閉鎖リンパ節の郭清を行います。腹腔鏡による前立腺全摘術を行っている施設もあります。代表的な合併症として,尿失禁や性機能不全(ED)などがあります。
体外から照射する外照射がメインとなり,病期BやCの患者が主な対象になります。単独で行われる場合やホルモン療法,手術療法などと組み合わせて行う場合もあります。小さな放射線物質を前立腺に埋め込む密封小線源療法も普及しつつあります。
前立腺がんはほとんどの場合,男性ホルモンによって発育が促進するため,体内の男性ホルモンを抑制するホルモン療法が有効になります。具体的な方法としては,手術により精巣を摘出する方法と,男性ホルモンの分泌を抑える内服や注射を行う方法があります。 しかし,ホルモン療法は2〜3年で治療抵抗性となります。ホルモン治療抵抗性前立腺がんに対し現在有効な治療法は確立していません。
【側註】
【PSA】prostate specific antigen。前立腺特異抗原の略。正常値は0〜4.0ng/ml。