はじめに
血尿は腎・尿路疾患の重要な症候の一つです。その原因は非常に多く、患者さんの訴え、年齢、性別、既往歴、診察所見をもとに検査がすすめられていきます。
血尿の原因は?
大きく分けて、内科的疾患と泌尿器科的疾患の2つに分けられます。
1.内科的疾患
急性腎炎など腎の糸球体における尿生成過程そのものに原因がある疾患です。頻度として多いのは、腎糸球体腎炎、IgA腎症などです。
2.泌尿器科的疾患
腎・尿管・膀胱に器質的疾患があるときです。頻度が多い疾患としては、結石、腫瘍、感染症、外傷などです。以下ではおもに成人の泌尿器科疾患を中心に説明します。
顕微鏡的血尿とは?
尿検査の尿沈渣において赤血球が一視野で5個以上認められるときに顕微鏡的血尿といいます。通常は中間尿を検尿コップにとってもらい、尿検査を行います。採尿方法は女性ではとくに重要です。女性の中間尿では外陰部を十分に清拭して拡げて採尿するようにしていただいています。生理血の混入が心配なときには、カテーテルでの採尿を行います。
血尿の随伴症状とは?
- ・血尿に排尿時痛を伴うときがあります。膀胱や前立腺などの下部尿路感染症、発熱を伴う場合には急性腎盂腎炎、急性前立腺炎などによって起きる血尿の場合です。
- ・突然に背部痛、側腹部の疼痛、仙痛発作と同時にあるいは症状に引き続いて認められる血尿では、尿路結石症(腎結石・尿管結石・膀胱結石など)によることが多いと考えて下さい。
患者さんが血尿と見間違えることは?
- ・正常尿は無色透明、あるいは黄色です。そのため、赤色や褐色尿も患者さんは血尿と思って受診することがあります。水分摂取が少ないときの濃縮尿、薬剤内服による変化、筋肉融解に伴うミオグロビン尿でも尿の色調が褐色や、赤色に見えることがあります。
- ・女性では月経血の影響があるので、一般に月経をはさんだ前後1週間の尿検査での尿潜血反応陽性には注意を要します。
肉眼的血尿の患者さんの検査手順は?
検査は原則として、患者さんに負担のかからない非侵襲性の検査から順を追って行っていきます。
1)検尿
尿検査はまず尿コップにとった中間尿の色調をみます。試験紙を用いて蛋白、糖、尿潜血を調べます。つぎに遠心してその尿沈渣を高倍率(400倍の一視野hpf)の顕微鏡検査(あるいは自動検査装置)で行います。各視野のなかの赤血球、白血球、円柱などの有形成分の数で表されます。
2)尿細胞診検査
検尿の一部を用いて尿路上皮がん細胞の有無を発見するために行う検査です。クラス1~5で表示されます。クラス4、5はがん細胞を強く疑う所見を意味します。
3)血液検査
血液一般検査、生化学検査で腎機能をチェックします。さらに糸球体疾患(成人ではおもにIgA腎症)を疑うときには、血清IgA値(正常値350mg/dl以下)測定を行うこともあります。
4)超音波検査(エコー)
腎臓の形態、膀胱病変、さらに男性では前立腺肥大の有無をみるために必須の検査です。侵襲もなく、外来診察室、入院のベッドサイドでも行えるので非常に有用です。腎では腎実質の胞性変化、良性あるいは悪性腫瘍、腎結石の発見、さらに尿路の閉塞に伴う水腎症、膀胱結石や残尿量、膀胱腫瘍をみつけることができます。
5)腹部単純X線写真(KUB)
血尿と側腹部痛で腎・尿管結石症を強く疑ったときには至急撮影します。ただし妊婦さんや妊娠の可能性のある女性には禁忌です。
6)排泄性尿路造影(IVP)
ヨード造影剤を静脈内注入して、5分後に腎盂への排泄時と15分後に尿管、膀胱まで造影剤が排泄されたときに撮影します。腎盂・腎杯の形状、尿管への尿の流れ具合、膀胱の形態をみるのによく行われる検査です。ヨードによる副作用があるため、腎機能低下(血清クレアチニン値1.3~1.5以上)、ヨードアレルギーの既往の患者さんには禁忌です。放射線被曝量も多いこと、造影剤に対する過敏症もしばしばみられること、他の低侵襲検査に比べて得られる情報量が限られていることなどから最近は検査の適応に慎重になる傾向があります。
7)腹部・骨盤CT検査
肉眼的血尿の患者さんでは、尿路の超音波検査やIVPを行ってから必要に応じてCTスキャンが行われます。通常のKUBX線検査ではわからない微小な結石や、腎腫瘍、膀胱病変の評価に優れています。救急外来で血尿を伴う急性腹症の患者さんでは、単純CTを緊急で行うこともあります。
8)膀胱鏡検査
肉眼的血尿の患者さんで、エコー、IVPを行ってから膀胱内の腫瘍病変が疑われるときや、左右どちらの腎臓からの出血があるかを確認するときに行われます。とくに男性では検査時に痛みを伴う侵襲的検査なので泌尿器科外来でも適応には十分に配慮しています。
血尿とがんの関連は?
膀胱がんの患者さんの約80%は、無症候性肉眼的血尿を契機に受診するといわれています。また腎がんでは最近は検診などでのエコー検査で偶然に見つかることが多くなっていますが、約30%の患者さんには血尿を伴います。無症候性の顕微鏡的血尿でも、高齢者60歳以上の患者さんでは、悪性腫瘍に十分留意して診断をすすめています。
原因がわからないことは?
血尿をきたした患者さんに、上記のような一連の検査を行っても、原因がわからないこともしばしばあります。とくに無症候性の顕微鏡的血尿は長期間にわたって持続することがあります。年に1回の外来受診での検尿、尿細胞診検査をお薦めしています。また原因がわからないまま、肉眼的血尿が自然に消失することもありますが、再び肉眼的血尿がでたときには必ず受診するように指導します。
■側註【器質的疾患】臓器そのものの構造に疾患がみられること。
【尿沈渣検査】新鮮尿を遠心し、沈澱した尿中有形成分を顕微鏡下で観察すること。
【痛みに対する処置】点滴路を確保してから、尿管の攣縮を抑えるために、副交感神経抑制剤の硫酸アトロピン 1A 0.5mgを生理食塩水20mlで薄めてゆっくりと静注する。効果がないとき、疼痛がひどいときには非麻薬性鎮痛剤であるペンタゾシン15~30mgを筋注する。
【超音波検査(腎エコー)】結石は音響陰影 (acoustic shadow)を生じることで診断可能となる。 また水腎症の程度、治療による改善の程度を経過観察する際に、低侵襲で繰り返して検査できる利点がある。
【腹部単純X線撮影(KUB)】腎部(Kidney)から尿管(Ureter)、膀胱(Bladder)までの範囲を撮影するX線検査。
【排泄性尿路造影(IVP : 静脈性腎盂造影)】経静脈的に投与された造影剤が腎から排泄されることにより、腎盂・尿管・膀胱を造影する方法。尿酸結石などのX線陰性結石の診断にも適している。
【CT検査】2~3mm以下の小さい結石や、X線陰性結石、水腎症を迅速に診断することができる。腎盂尿管腫瘍との鑑別にも有用である。
【膀胱鏡】硬性鏡と軟性鏡がある。キシロカインゼリーを尿道内注入してから施行します。