ネフローゼ症候群とは?
尿中にたくさんの蛋白質が失われ、血液中の蛋白質(とくにアルブミン)が少なくなった病態をネフローゼ症候群とよんでいます。ある単一の疾患ではなく、たとえば、糖尿病の患者さんが長い年月のうちに腎障害を生じて大量の尿蛋白が出現し、血液中のアルブミンが少なくなった場合にネフローゼ症候群という病名でよぶようになります。
診断基準
まず尿中に1日で3.5g以上の蛋白質が失われているか。その結果として、血液中の蛋白質が失われてアルブミン濃度が3.0g/dl以下(総蛋白質の場合は6.0g/dl以下)になっているか。この2つの条件を満たせばネフローゼ症候群とよぶことができます。多くの場合は血中のコレステロール値が高くなり、身体的にはむくみがみられますが、これらは必須条件ではありません。
原疾患
大きく2つに分けられます。腎臓そのものに原因がある原発性のものと、何らかの全身性疾患の一部として腎臓が障害される二次性のものとがあります。原発性のものは腎生検により病理学的に分類されます。二次性のものでは糖尿病性のものが多く、他には膠原病によるものなどがあります。
病 態
腎臓では糸球体で血液を濾過し、尿細管で必要なものは再吸収して不必要なものは尿として排泄しています。この際、血液中の蛋白質は糸球体では濾過されないのが通常です。蛋白質は分子量の大きい物質なので糸球体の篩(ふるい)の目を通ることができない(サイズバリア)か、電気的に帯電しているため電気的に反発して通ることができない(チャージバリア)ため、糸球体で濾過されないのが通常です。この糸球体のバリアが何らかの原因で障害を受け、蛋白質が大量に通過するようになった状態がネフローゼ症候群の病態のもととなります。結果として血液中の蛋白質(とくにアルブミン)が低下します。このアルブミンは膠質浸透圧の維持に重要な物質で、血管内に体液を保持する役目があります。アルブミンが失われることによって血管内から血管外に体液が移動し、むくみが生じることになります。場合によっては、腹水や胸水の貯留もみられるようになります。
治 療
治療は、安静、食事療法、薬物療法が基本となります。
1)安 静
安静によって尿蛋白が減少することはみられることであり、他の療法と合わせて行われます。
2)食事療法
食事療法は、塩分制限と蛋白制限が中心となります。浮腫の状態では細胞外液にナトリウムが蓄積しているため、それを軽減するには塩分の制限が必要となります。また、血液中の蛋白質が減少しているため、かつては高蛋白質の食事をすすめていました。その後、高蛋白質の食事では腎臓に負担をかける結果になるということがわかり、現在は蛋白制限食にするのが主流となっています。
3)薬物療法
薬物による治療には、原病に対する治療と、状態に対する対症療法とがあります。ネフローゼ症候群は原因として原発性と続発性のものがありますが、原発性のものは一般に腎生検を施行して薬物療法の選択や予後の検討がなされます。続発性のものは原病の治療の一環として腎臓の治療が考慮されます。腎生検により原病の診断あるいは薬物の選択をする場合もあります。薬物療法の中心はステロイド療法になります。成人の場合40~60mg/日の初期量から開始して漸減していきます。反応が悪い場合、あるいは原病・腎生検組織像によっては、ステロイドパルス療法・免疫抑制剤を使用する場合もあります。薬物に対する反応があれば尿蛋白は減少し、血液中の蛋白質(とくにアルブミン)は正常化してネフローゼ症候群の病態は改善してきます。効果が望める反面、これらの薬物は副作用あるいは合併症をきたす可能性が高く十分注意して使用する必要があります。状態に対する対症療法は、とくに浮腫に対する利尿薬が中心となります。安静・食事療法などとともに必要に応じて利尿薬を使用します。フロセミドや抗アルドステロン薬などが一般に選択されます。低アルブミン血症が高度な場合には、心不全などに注意しながらアルブミンを投与することもあります。