中村クリニック 泌尿器科

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腎盂腎炎・膀胱炎

尿路感染症とは?

腎臓から尿道に至る尿路における感染症を総称して尿路感染症といいます。尿路の感染部位により腎盂腎炎、膀胱炎、尿道炎に分類されます。ここでは上部尿路感染症の代表である腎盂腎炎と下部尿路感染症の中でも頻度の高い膀胱炎について解説します。

腎盂腎炎

腎実質および腎盂腎杯系の感染症を腎盂腎炎といいます。原因は大腸菌などの腸内細菌の逆行性波及がおもな経路です。臨床経過により急性腎盂腎炎と慢性腎盂腎炎とに分類されます。

急性腎盂腎炎

尿路に基礎疾患のない急性単純性の腎盂腎炎の多くは、20~30歳代の若い女性に多く起こります。感染経路は先行する膀胱炎から上行性に感染することが多いです。

1)臨床症状および診断

急性腎盂腎炎の症状は、悪寒・戦慄を伴った38℃以上の発熱(弛張熱)と、患側腎部に疼痛があります。膀胱炎を併発することが多く、頻尿や排尿痛などの膀胱刺激症状を伴い、通常、腰背部の叩打痛が認められます。時に悪心、嘔吐、腹痛など消化器症状を伴います。血液検査では白血球増多、CRP陽性が認められます。腎機能は一般的に正常です。尿検査では膿尿、血膿尿、軽度蛋白尿を認めます。

2)治 療

患者は高度発熱のため脱水状態になっていることが多く、原則として入院治療します。経口的にも水分をとり、さらに点滴補液を行い十分な尿量を確保し、細菌の尿路内での増殖を防ぎます。臨床症状をみながら尿中移行性のよい抗菌薬(例:ニューキノロン系)の投与を行います。

3)予 後

適切な抗菌薬の投与によりほとんどの場合は完治します。再発例や起因菌が大腸菌以外の例では、結石や膀胱尿管逆流、尿路腫瘍などの尿路の基礎疾患の検索が必要になります。通常は解熱し炎症が落ち着いたら、超音波検査、排泄性腎盂造影検査を施行し、基礎疾患の有無を確認します。

慢性腎盂腎炎

急性腎盂腎炎から移行する場合と最初から慢性に経過する場合とがあります。多くは尿路に基礎疾患を有していたり、糖尿病や悪性腫瘍などで免疫低下状態の患者に発症する慢性複雑性腎盂腎炎のタイプです。

1)臨床症状および診断

臨床症状は、急性増悪期を除き症状は軽微です。発熱も軽度であり、患側腎部疼痛や頻尿、排尿痛も顕著ではありません。まったく症状を自覚しないこともあります。ただ長期の臨床経過に伴い腎実質の破壊が進行すると、腎機能の低下や高血圧を生じることもあります。

2)治 療

急性増悪期は入院のうえ、補液、抗菌薬の投与が必要になります。慢性複雑性の腎盂腎炎では、まず基礎疾患の除去を考えます。

3)予 後

慢性腎盂腎炎では、原因菌が薬剤耐性を獲得していることも多く、基礎疾患が除去されない限り、慢性腎盂腎炎の進行を阻止することはできません。合併症や基礎疾患の早期発見ならびに治療が大切です。

急性膀胱炎

急性単純性膀胱炎は、細菌の尿路逆行性の感染によることが多く、直腸や会陰部に常在する菌が起因菌になります。尿道の短い女性に多くみられます。性交、月経、また、便秘や排尿を我慢することが誘因となります。

1)臨床症状および診断

膀胱炎の三主徴は、頻尿、排尿痛、尿混濁です。頻尿は1回排尿量が少なく残尿感が強くなります。排尿痛は終末時排尿痛が多いですが、激症時には全排尿痛になります。尿混濁は膿尿によることも血尿によることもあります。  上記臨床症状に、膿尿や細菌尿などの尿所見があれば診断は容易です。腎盂腎炎と異なり発熱は認められません。

2)治療と予後

起因菌は大腸菌が多く、十分な水分摂取を指導し尿路への移行の良い抗菌薬の経口投与を行います。通常は2~3日で症状は軽快します。

慢性膀胱炎

糖尿病、悪性腫瘍、血液疾患といった免疫機能の低下している場合や前立腺肥大症、神経因性膀胱、尿道狭窄症といった尿流停滞をきたす基礎疾患を有する場合がほとんどです。

1)臨床症状および診断

急性膀胱炎に比べ症状は軽微で、頻尿、排尿時痛、残尿感など認められますが、まったく無症状のこともあります。診断は臨床症状は参考にならず、膿尿や細菌尿が続く尿所見が重要です。

2)治療と予後

本症は難治性で起因菌も多様です。治療の基本は、起因菌に感受性のある抗菌薬を投与すると同時に基礎疾患を検索し治療することです。長期尿道カテーテル留置症例では尿路感染症は必発ですが、症状がない限り抗菌薬の投与は必要ありません。

■側註

【逆行性波及】尿道→膀胱→尿管→腎盂と進展する上行性感染で解剖学的な理由で女性に多い。しかし、男性は高齢になると前立腺疾患が悪くなり頻度が高まる。

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